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中学生雑記 第三話〜テストな日―そして悪夢へ―〜

 よう、私は前渡恵だ。めぐみじゃなくてめぐむだぞ。ぼちぼち覚えたか?
 三度目だから適当に紹介するよ。私はいわゆる不登校。今まではひきこもりって言ってたけどなんか響きが悪いことに気が付いたんで不登校ってことにしてくれ。ま、内容なんて変わらないけどね。
 うちはお父さんが病気で寝ている。お母さんは平日のお昼は帰ってくる。
 そんなことはどうだって良い。今世間じゃあ、修学旅行前で大変らしい。全く関係ないことないんだけど、私は行くだけで満足だから別になんとも思っていない。適当に生きていこうと思ってる。

 今日、何思ったか知らないけれど学校に行くことをお父さんに宣言してしまった。気分ってやつよ。学校行って漫画読むか家でゲームやるかだからたいした変わりはない。
 今の時間は九時ちょっと過ぎ。別にいつ行ったっていい。行かなくても良いような生活している腕前だからね。まず、ボロッちい家を出て開店時間の早いスーパーに向かう。空には雲がほとんどない。私の前を黒猫が走り抜けた。嫌な感じだ。スーパーに行く理由は昼ご飯の調達だ。コンビニより安いからね。こんな時間に中学生が歩いていて下手すると補導しかれないんで、いつも学校に行くときのように別に可愛げも色気もない服を着ている。
 
スーパーの中は活気で満ちている。
「いらっしゃい!安くて美味しいイチゴだよ!甘いよ!」
新鮮って言ってないってことは腐りかけってことなんじゃないのか?腐りかけなら確かに安くて甘いだろうさ。でも間違ってるような気がするぞ。私はパン売り場に向かう。もう一個理由はあるんだけどね。私がのんびり歩いているところ、エプロンを着たねえちゃんがトレイに載ったコップを渡してきた。もう一つの目的とはこれじゃない。でも私は受け取る。中には少しだけ泡だった透き通った茶色の液体が入っている。
「おいしいですよ。カロリーオフです。新発売なのでお試しに飲んでみてください」
私は何も疑わずにそれに口をつける。喉が乾いていたので一思いに飲み干す。って、この味はビールなんじゃないのか?妙に苦いぞ?確かにお茶ならカロリーオフだがあたりまえだから普通は言わないぞ。不覚!
「どうですか?製品はそちらにおいてあるのでぜひお買い求めください」
違うだろ!なんか少しくらくらするぞ。
「これってビールですよね」
「はい。エンドレスマンチック社創業製品です。本日より正式に販売が開始された『マンチックムーン』という商品でクラシックタイプの味であっさりとした舌触り、後味がまた美味しい、カロリーオフの究極のビールです」
バイトのねえちゃんは呑気に営業スマイルでセールスポイントを話し出しちゃったよ。
「じゃなくって、私、未成年なんですけど」
バイトのねいちゃんはあからさまに嫌な顔をした。周りは人がどんどん通り過ぎていく。そのねえちゃんは何もなかったかのように営業スマイルを取り戻し、通り行く人にセールスを始めた。健やかに無視かよ。私はそんなに優しい人間じゃないのでそのねえちゃんの脚を軽く蹴る。
「ちょっと、あんた私にビールを無理矢理飲ませといて何商売始めてんのよ?偉い人呼んでよ。それともうちのお父さん呼んでやろうか?」
「お客様、私は無理矢理ビールを飲ませてなんかいません。人聞きの悪いことを言わないでください。あなたが勝手に飲んだだけです」
私はこの言葉にかなり腹が立った。勝手に飲んだだって?
「じゃあ私が偉い人呼ぶわよ?あんたが渡してきたんでしょ?責任とってよ」
ねえちゃんは他のお客さんにビールを渡すのを止めて私に本格的に攻撃を始めてきやがる。
「ちょっとすいません。お客様、ちょっと奥まできていただけますか?」
周りのお客に一言言った後で私を拉致していく。私は何も言わずについていき、事務室みたいなところに連れて行かれた。私はその部屋に入ってすぐ、
「ねえ、むやみにお酒渡したあんたに責任があるんじゃないの?未成年者に酒を飲ませていいと思ってんの?」
「いえ、ですが、飲んだのはあなたです。私にも少しは過失があったと思っています」
最初からそう言えよ。なんだよ、こんなところに連れてきて。
「ですが、あなたはどうしてこんな時間に外に出歩いているのですか?中学生が出歩いていて良い時間じゃないですよ。学校はどうしたんですか?」
普通の母親みたいなこと言いやがる。しかも痛いところついてきやがる。話反らしてるし。
「私は高校生。今日はたまたま学校は休み。いけない?」
私は勝ち誇ったように嘘を言ってやる。
「じゃあ学校名を教えてください。連絡を取らせていただきます」
ちょっと困る。いや、大いに困る。
「なんでよ。私は何もしてないでしょ?こっちの偉い人を先に呼んでよ」
少し出た汗のせいでしっかり効いた空調の冷たい風で少し肌寒く感じる。
「何かいえない理由でもあるのですか?」
「ほんとに呼ぶわよ、私が偉い人」
向こうも話は合わせる気はない。しかとを決め込んでいやがる。
「今日ここら辺では学生はだれも見てませんよ。嘘をつかないでください」
ったく。いいかげんにしてほしいわ。
「帰る。もう、時間の無駄だわ。」
私はそう言って勢いよく立ち上がる。店の人は何か言ってる。しかとだ、しかと。私は気合いを入れて戸を閉める。私の足は忘れることなくパンの売っているほうに向かう。幸い、不思議とだれもいない。私は回りを確認しつつ鞄に二つ・・・
 店を出る。無論レジは通っていない。私は学校に向かってる。変なもの飲まされたせいで身体が熱いわ、一段と。
 
 学校の門までついて時計を見ると、時間は九時三十分になっている。
 いつも通りある場所がバレバレで死角が広い無意味な防犯カメラを無視して教室に向かう。なんかやけに静かな廊下だ。
「前渡、何やっとるんや!」
出ました、北谷弘成、三五歳、独身。
「学校来てやったのにその言い方はないんじゃない?」
「来てやったってなんや!何様のつもりや!」
「だって先生たちだって私たちがいなかったら仕事ないわよ?生徒様は神様です、ぐらいのこといってみなさいよ」
私は前髪をあげながら言う。
「現実に子どもがいなくなることなんてありえないんや!どうでもええから静かに教室に入れ!」
「あんたが呼び止めたんでしょうが。私は教室におとなしく向かっていたんだって」
B組の教室から新たな先生が顔を出す。見たことある顔だが思い出せない。まあいい。
「先生、うるさいですよ。テスト中なんだから静かにしてください」
言われてるぞ、北谷弘成、三五歳、独身。
「生徒が廊下をうろついとったほうが集中できんやないですか」
北谷弘成、三五歳、独身、言い返すとはやるね。
「わかったから静かにしてあげてください。前渡も教室に戻って」
「あいあい」
私は何か言いたげにB組の先生に眼を飛ばしているどうしようもない先生を置いて教室に向かう。っと待てよ?私の教室ってどこだ?鈴木のところに行こう、まず。
 人のクラスを覚えているはずもなく、私は窓から教室を眺めまわる。なかなかいい景色に見えるじゃない。私は奥のほうに歩いていく。教室の監督の先生とやらは気付かない。パソコンをいじっている先生がいれば読書に没頭しているおばちゃんもいる。全く、カンニングしてもばれないぞ。E組の奥のほうに鈴木らしき金髪を発見した。金髪といっても今はオレンジのかなりナンセンスなメッシュが入っている。この言い方は古いか?学校に来なければテレビも見ないんで流行や廃った言葉がわからないぞ。
「鈴木、元気か?」
私は鈴木を大声で呼ぶ。教室中がこっちを振り向くが、教室の中からじいさんが
「前渡か!テスト中に大声を出すな!教室に帰れ!」
そういえばテスト中ってさっきの人もほざいていやがりましたね。
「あんたのほうが声でかいって。じゃあ聞くけど私のクラスって何組よ?」
「前も俺に聞いただろ、おまえ!だからD組だっ!」
おお、お代官様か。
「わかったわよ。わかったから受験生のテスト中に大声出すの止めてあげなさいよ」
「おまえのせいだ!」
私がD組の後ろの扉に入ってから代官様が言ったのが聞こえた。
 D組の教室に入っても監督のおばちゃんは気が付かない。無意味だ。私は一番手ごろ場所にいる男のテストの紙を見る。英語のようだ。しかも真っ白。私は異常に気になったので後ろにたって鞄に入っていたペンをそっと取り出してそいつの回答に書く。そいつは何だ?って感じの顔をして後ろを振り向く。それを無視して書きまくる。監督のおばちゃんはふとこちらを向くので止めてそいつの後ろに隠れる。監督のおばちゃんは何事もなかったかのように読書を始める。セーフ。
私が教えていたらチャイムが鳴った。教室をさっと抜け出す。
「おまえどこから出てきとるんや!」
また出た、北谷弘成、三五歳、独身。
「何よ。自分のクラス行けって言ったのあんたでしょうが」
「おまえのクラスはC組や!」
何だって?私は代官に言われたんだぞ。そういれば前も代官のせいじゃなかったか?
「私はお代官様に言われたの!」
「自分のクラスぐらい覚えとき!はよう次の準備をせい!」
「わかったわよ。もう!」
今ごろだけど待てよ?テストならパンをパクってくる必要もなかったんじゃないのか?済んだことはしょうがないから教室の中に入っていく。時代遅れの緑頭がいない。いないのに文句を言っちゃあ罰が当たるね。
「前渡さん、おはよう」
誰だ?私に話し掛けてくる物好きは。テスト勉強でもしてればいいんだよ。
「おはよ・・・って誰だっけ?」
「前も聞かなかった?だからずっと同じクラスだった樋渡だって」
「ふうん。次って何のテストよ?」
「社会よ」
「ふうん」
私は自分の席と思われるところにすわる。すぐに先生が来やがる。
「席について教科書類しまって」
回りがざわざわと騒ぎながら席につき始める。
「じゃあ配るぞ」
先生が宣言をして配り始める。
 配り終わったところでチャイムが鳴った。余裕だ。公民のこんな簡単なとこか。私はバンバン答えを書いていく。
 
書き終わったときは時間が二十分も残っている。暇だから私は解答用紙を持って後ろの席のやつらに見えるように欠伸をしてみせる。先生は気が付かない。私は問題用紙の端をちぎって問題番号と答えを書いて斜め右前にいた男に向かって投げる。命中。手首に当たったのに気がついたらしくその紙を広げる。それにしてもこの学校の先生って鈍いなあ。その男は全く問題が解けていなかったらしく少し疑ってから解答用紙に書き始めた。面白いね。この面白さを逃がすわけには行かない。
「せんせーい、私の右前の男が何か見てます」
そいつより後ろにいたやつ全員はペンを止めてそいつを注目する。そいつは私の投げた紙をさっとポケットの中に入れる。
「則之、おまえか」
先生はそいつに向かって言う。そいつは他人事のように頭を伏せる。
「みんなはテストに戻れ。おまえちょっとテスト終わったら来い」
やったー。別に恨みはないけれど見ていて面白いからOK。
 
チャイムの音が弾む。久しぶりにこの音聞いたな。前来たときなんて不思議と音を聞いた記憶はないんだよな。夢の中だったんだ。
「終わり。後ろのやつ集めろ」
ざわざわ騒がしくなる。則之と呼ばれた男は回りのやつらに話し掛けられている。この景色最高だわ、もう。
「終わり。礼なしでいい。則之、逃げるな」
そう言って先生は教室を出て則之とやらは強制連行されていく。
 私の後ろの席のやつが
「前渡さんがやったんでしょ?」
とか失礼極まりないことを言ってきやがる。
「私、真後ろの席だから前途さんが何かやってるの見えたよ」
くっ、しっかりしていやがる。逃げるが勝ち。こんなやつ一人の証言じゃあ私が強情張ればばれない。無理を通せば道理が引っ込む。いい言葉だねぇ。
今日はもう終わりのはずだ。っと待てよ?問題用紙の一部が破れていたら不審に思われる。私はわいわい喋っている隣の席のやつの問題用紙をばれないように私のと同じように破る。そしてその部分を捨てる。私の問題用紙も捨てる。そんなことをしていると鈴木が廊下に私を呼びにやってきた。
「めぐむ、相変わらずね」
「何が相変わらずなのよ」
「出席率とか」
うるさいね、この人は。鈴木だから許せるけど・・・
「で、今日はもうすぐある修学旅行の打ち合わせなんだけど」
鈴木は言う。私は鈴木のところ、廊下に出て行く。
「あんた今、何かやらかしたでしょ?」
鈴木が目の奥に笑みを浮かべながら囁く。私は笑って誤魔化す。
「何でそんなこと思うのよ」
私はとりあいず聞く。
「だってあんたがテスト中に学校に来て何もやらずに終わるなんて考えられないでしょ?」
堂々と失礼なことを言われてる気が無きにしも非ずな感じなんですがね・・・
「まあ良いや、それじゃあわたしの計画について話すわよ」
鈴木はそう言って話し出した。

「わかった。別に良いけど鈴木はいくら奢ってくれるのよ?あんた金持ちなんだから恵まれないめぐむ様に何か奉りなさいよ」
「微妙な日本語ね。まあ電車代は全部こっちが負担してあげるわよ。それでいい?」
鈴木はそう言ってくれる。持つべきものは友達だねぇ。
「ありがと。流石鈴木。日本一多い苗字名だけあるわ」
「関係ないと思うけどね」
ここまで鈴木がいったとき圧力を感じた。
「おまえら、帰りのST始めるで教室に帰れ!」
また来たか、北谷弘成、三五歳、独身。流石ベテランってとこだね。
 私たちは潔く各々の教室に帰る。すぐにSTが始まる。斜め前の席にはもう則之とやらは帰ってきていた。
「吉野はほっておいてええ。後で伝えておく。あと前途、これ終わったら職員室に来い」
北谷弘成、三五歳、独身は冒頭にそう言う。
「何で私が行かなきゃならないのよ?何もしてないわよ?」
「吉野則之がおまえのことで何か言っとんたんや!」
教室がざわざわと騒ぎ出す。私はわざとらしく
「そいつ、何かやったの?例えばカンニングしたとか」
「何も言わんでええで後から来い!そう言ってくる前途やないからな・・・よっしゃ、後でオレと一緒に行くことにしよ」
なんか勝手に話が進められていて著しく不愉快な心境なんだけど・・・しかも行く気がないことがばれているのがつらい。
 先生は明日のテストに備えることやらなんやら言ったって言わなくったって何も変わらないようなことを言っている。
 すぐにSTが終わり北谷弘成、三五歳、独身は私のところにやってきやがる。
「行くで。吉野も来い」
私は仕方なく言われるがままに北谷弘成、三五歳、独身についていく。
 
一言も私たちは喋らず相談室に連れて行かれた。ここには行ったのはもう両手の指では数えられない数だ。先生たちはみんな呼び出すときは職員室と言っておき、職員室に来たところでここに収容する。
相談室は冷房がかかっていて先生が一人いた。
「何で呼ばれたかはわかるやろ?」
北谷弘成、三五歳、独身は私に振ってきやがる。ここでわかるというべきか、言わぬというべきか。
「この男がカンニングでもしたんでしょ?何でわたしが呼ばれるのよ?意味がわからない」
北谷弘成、三五歳、独身は短い前髪を左手で掻きながら
「前途、お前がこの紙を見たことあるやろ?」
「知らないわね。何で私が疑われるのよ?」
カンニング君は下を向いて黙っている。北谷弘成、三五歳、独身は何を根拠に私を犯人扱いしているのかわからない。生徒を信用しろよ。
「この筆跡はどう見ても前途のなんや!」
「それだけ?筆跡ぐらいその気になれば誰だって真似できるじゃない?」
私は筆跡に少しも注意をしなかったことを軽く後悔する。
「大体投げたにしても見たこいつが悪いんじゃないの?」
「受験生に向かってわからんこと教えたら誰でも見たくなるや・・・」
「ちょっと待ってください。前途さん、今誰が投げたとしてもって言いましたよね?」
最初にこの相談室の中にいた先生が初めて口を挟む。って私、まずいこといったみたいね・・・お酒のせいだ・・・
「言ってない言ってない言ってない。大体仮の話よ」
「前途、お前のテストには全く同じ答えが書いてあったんやで」
「偶然じゃないの?」
「前途、記述のところもや!」
不覚!私の逃げ場はないか?お酒のせいだ!あの姉ちゃんのせいだ!
「世の中には偶然ってものもあるじゃない?」
「他の奴は同じのはなかったんやで!」
うわ、最悪。どうすべきだ・・・私は諦める道を選ぶ。
「負けましたよ。私が投げました。だから何よ?見た奴のほうが悪いじゃん」
私は開き直って言い返す。
「前途は全教科0点や!吉田は社会のみ0点や!」
「私はどうせ社会しかテスト受けてないからどうだっていいわよ」
初めてカンニング君が口を開く。
「せ、先生、せ、せめて、そ、それに、書いて、ない、と、ところで、合って、いるのは、せ、正解に、して、いただけませんか・・・?」
文節に区切りながら言うなよ。ずうずうしいわね。本当はお前のほうが罪が重たいんだよ。
「そうやな・・・会議で聞くわ。前向きに検討しとくで安心せい。あと前途、今からお前の保護者を呼ぶで!」
「何いってんのよ?こいつのほうが罪が重いはずでしょ?何でそこまでされなきゃならないのよ!」
「二度と起こさんようにするためや!そもそもお前がやらんかったら起こらん事件だったんや!」
「納得いかないわね。大体いつ呼ぶのよ?」
私は睨み付けるように北谷弘成、三五歳、独身を見る。
「今はお前の母さん居るやろ!今呼ぶ!」
「何言ってるのよ?父さんはどうなるのよ!」
「いつも一人でいるんなら大丈夫やろ!」
酷い男ね。最低!
「吉田は帰ってええで。じゃあ前途は電話するから待っとれよ!」
北谷弘成、三五歳、独身とカンニング君は相談室を出て行く。
 そして私と最初からいた先生は沈黙に入った。

「前途!大変や!お前の親父さんが・・・」
「何だって!」
北谷弘成、三五歳、独身の言葉を聞き、私は勢いよく立ち上がる。
「帰る!」
私は教室に荷物を取りに行かずに学校を後にした・・・


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