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中学生雑記 第二話〜いつものような日曜日〜
はじめての方もそうでない方も私は前渡恵だ。ぜんとめぐむ、だからね。まえわたりめぐみ、じゃないからね。これからご愛読していただけたら光栄だ。
前回のとおり自己紹介なんだけど別におまえなんかに興味ないって思う不愉快な奴らと、前回読んだ、くどい、って思う奴らは飛ばしてよろしい。
私は中学三年生。同級生は受験のために勉強してたり、最後の部活の大会のためにがんばって足りと必死な時期だ。私はそんな周りには流されず引きこもりをしている。そう、ヒッキーというものなのだ。引きこもりとは
何らかの理由で外出できない状態。精神医学的に病理性の高いものから,社会生活に対してストレスを強く感じるためなど,さまざまな原因が挙げられる。
〔2000
年(平成 12)厚生労働省により引きこもりに関する初の全国調査が行われ,引きこもりを「とくに精神的な障害がきっかけではなく,自宅や自室に 6
か月以上の長期間ひきこもって社会参加できないでいる中学卒業段階以降の青年の状態。現役の小・中学生の不登校は含まない」と定義している〕
引きこもりに値しないじゃん、と思う奴らはもう読まなくていい。代わりに私が毎晩枕もとで音読してやるから。
学校に一切行ってないわけじゃない。ま、そんなことは今回はどうでも良いけどね。
私は漫画や小説が大好きだ。だからどうって事はないからそんなこと覚えるぐらいなら、自分の学校の先生の名前を一人でも多く覚えてあげて。
今日私は本屋に行くことにした。別にどうってことはない。本を売ってるお店のことだ。世間では今日は日曜日らしい。別にテレビを見るわけでもないからそんなことは関係ないね。
私は自転車でキコキコそれほど遠くない本屋に向かう。別に景色が綺麗なわけでもたいしたことがあるわけでもないから描写はカットね。作者の手抜きではないからね。
私は本屋の中に入る。この五月なら暖房も冷房も要らないだろう。ちょっと蒸し暑かったけど本屋の中はカラッとしている。気持ちいいねぇ。私はまず少年漫画のあるところに向かう。何を買おうか考える。世の中にはたくさんの漫画はあるけれど、名作や傑作に値するものは本当に数少ない。人気があればいいってもんじゃない。人気と書いてあっても誰に、どんな年代の奴に、とかがわからないから参考にならない。少年漫画で人気だからってどこまでが少年で、どんな不要な萌え要素があるかわからんから恐い。私はそんなことを考えながら表紙を見る。別にたいした参考にもならない。絵が汚いものの方がストーリーが良かったりするからな。別に見てても埒があかないので雑誌コーナーに向かう。雑誌に連載してるものを見て何を買おうか考える、という作戦だ。少年漫画のところに向かう。月刊誌やら週刊誌やらたくさん並んでいる。何を見ようか考える。まず一番近くにあった雑誌を取る。パラパラめくる。たいした漫画はない。次の雑誌を手に取る。なにやら水着を着た姉ちゃんが微笑んでいる。もういいって。
それから二つ三つの雑誌を見たが結局何を買おうかまとまらなかった。結論を言うと雑誌を見てから漫画を買うと、雑誌を見ている途中で飽きるって、ことだ。
私はライトノベルのあるところに向かう。決して厳つい称号を手にした作品を買うつもりはない。文学というものを読んでみたことはあったが、別に面白いとも感じないし読んでいて興味を注ぐこともほとんどない。コミックスっぽい表紙をした小説を手に取る。絵のバランスが悪い。次の小説を取る。絵はいい。あらすじを読む。なんか長くなりそうだからやめる。次を手にとる。表紙の絵もあらすじもいい感じだ。あとがきを読む。自分のペットの話が書いてある。それがどうしたんだって。どんな小説を買おうか決めたところで
「前渡さん?」
という低い声が後ろから聞こえる。私は突然殴られても困るので振り返る。そこには気の小さそうな私より少し背の低いどこかで見たことのある眼鏡の男が立っていた。
「あんた誰よ?私に何のよう?あとおまえ何歳?」
「俺は十五歳、名前は西田憲太。ちょっと話があるんだけどいいかな?」
この私に話?私に話し掛けて来る野郎は電波な奴と不良と先生ぐらいなもんだぞ。
「あんた不良の手先?オレンジ頭の下僕?」
「違うよ。ひどいね」
じゃあおまえは電波か。なら話は簡単だね。別にやることもないのでついてってやるか。
「いいわよ。嘘ついてたら撲殺するからね」
「嘘ついてなんかないよ。じゃあついてきて」
その眼鏡君は外に出てすぐ隣の公園に向かう。やっぱ怖いなぁ。
その公園には親子連れがいた。子どもを宥めるお母さん、泣いている子ども,明らかに機嫌の悪そうなお父さん。これはお父さんと喧嘩したな。
眼鏡君は人気のないところに向かう。やっぱ怖い。
「で、こんなところに連れてきてなんの用よ?」
「俺さ、前渡さんのこと好きだったんだ」
あぁー?何言い出すかと思えばこの手の話かよ。私は告白されたことなんて初めてだ。私を好きになるなんて相当電波ね。
「残念ね。私は別にあんたのこと好きでもなんでもないわよ」
風が吹き抜け、私の赤褐色の髪を揺らす。その眼鏡君は泣きそうになっている。泣かれても分が悪いので私は
「私は誰も好きになったことがないのよ。格好いいとか可愛いとかそういう感性は備わってるみたいなんだけど恋をするとかの感情はないみたいね。ごめんなさいね」
その眼鏡君はさっきより泣きそうになっている。
「俺さ、小学生の頃から前渡さんのこと好きだったんだ。初恋ってやつ」
それは一生の不覚ね。好きになろうが嫌いになろうが私はぜんぜん構わないけど、一生に一度の初恋を私にするなんてね。
「付き合ってくれないか」
だからダメだって。めんどくさいし、私と付き合ったら一生後悔する。本人が言うのだから間違いない。漫画や小説みたいな恋愛なんかリアルな世界ではありえないぞ。
「ごめんね。新しい女性探しなよ」
「そう・・・せめて携帯のアドレスを教えてくれないか?」
残念。うちは貧乏。漫画に使う金はあっても別に相手のいない携帯電話なんか必要ない。
「持ってないんだ。ごめんね」
やっと諦めたらしい。
「時間割いてもらってごめんね」
わかればいい。ちょっとこんな終わり方可哀想な気がするけどしょうがない。相手が悪かったね。
「別に気にしなくていいよ」
私は言う。眼鏡君は軽く頭を下げて公園から出て行く。終わりに近づいた春の湿った風が私の短いスカートを揺らした。
私は気を取り直して本屋に再び向かう。なんか変な気持ちだ。私が公園を出るときはさっきの親子がいなくなっていた。
本屋で私はどんな漫画を買おうか悩む。私は適当に二冊、絵のきれいな漫画を取り、ライトノベルのところに向かう。しかし、さっき買うと自分に誓った小説がなくなっていた。悔しかったから適当に本を取って表紙カバーを付け替えて漫画のみを買いにレジに向かった。表紙の絵をみてか本屋のレジのおばさんの目が何か言ってる。私はそんなことは気にしない。人の目何ざ関係ないね。気にしてたら何もできないからね。
本屋の安っぽい時計をみる。妙な時間。まぁ、スーパーでも行くか。
ということでスーパーに着いた。何が安いかはわからない。とりあいず張り出されているチラシを見る。これといって安くいいものが買えそうにない。でも、今日食べるものがない。買い込んどくか、と決意する。まずキャベツを見る。愛知産だって。一玉百二十五円。これは安いんじゃないか、二十五円ぐらい。速攻決意して籠に入れる。果物に目が行く。パイナップルと目が合った。食べてくれ、と叫んでいるようだ。仕方がないから一番安いカット済みなものを入れる。量は少ないけどしかたない。そのまま歩く。適当に安くて新鮮な野菜を入れる。そのままお肉コーナーに着く。豚肉が安い。買うしかない。自分が食べるんだからたいした物じゃなくていい、金ないし。ということで二パックセットの異常に安いものを入れる。
杏仁豆腐を見つけた。美味しそうに光っている。で、どうでもいいことなんだけど何で豆腐って呼ばれるんだ?豆から出来てるわけじゃないだろう。牛乳の生まれ変わりじゃないのか?豆腐に見えるからなんて言い訳になんないからね。
ええっと買うものは、キャベツ、ニンジン、パイナップル、ピーマン、ジャガイモ、豚肉、鶏肉などなど。おお、必要ないものもあるけどこれはお好み焼きを作るしかない。私は小麦粉と鰹節、青海苔を買う。あとカップラーメンの買い込み。紅茶用にレモンが欲しかったけど高かったから誰もいないところで値札を隣のイチゴと入れ替えて買うのをやめた。私はレジに向かう。そこで私は公園にいた親子連れを見つけた。子どもがお父さんに抱かれて笑っている。よかったねぇ。
家に帰った。まず病気で寝ているお父さんのところに行く。お母さんは働きに出ている。決して元気ではなく、病気がちなのだが少しでも生活を良くしてくれようと働きに出てくれているのだ。別に親戚もいないので両親には迷惑かもしれないが孤児院にも行かず暮らしている。でもそのことが自治体とかの耳に入ると生活扶助打ち切りということもあり得るので秘密なのだ。
「ただいま、元気?」
全然元気そうにはない。まあ気にしてても私には何もできないので狭い台所に向かう。時計は十一時四十五分辺りを指している。まず手を洗って袖をまくる。ボールに小麦粉をたくさん入れて水を適当に入れる。そこに卵を三個入れて掻き混ぜる。いい感じになったところでキャベツを切って大量に入れる。ニンジンもピーマンも入れちゃえ。フライパンに油を敷いて豚肉を軽く炒めて皿に乗せる。かえしを二つ用意してフライパンに油を敷き直す。さっきの豚肉を少しフライパンに乗せ、ボールの中のものを厚くなり過ぎないように乗せる。私はそこまですると冷蔵庫の中からケッチャップを取り出し、ソースと共にある程度深い皿に乗せて混ぜ合わせる。ソースはケッチャップほどは入れない。辛くなるからね。そこまでしたところでかえしで裏側を見てみる。いい感じ。
「よ、必殺、大津波!」
私は二本の返しで勢いよくひっくり返した。お好み焼きになるものは宙にあがる。空中で一回転して見事床に落ちて自分のスリッパの上に落ちる。
「があ、ミスった!」
「めぐむ、どうしたんだ?」
お父さんの弱々しい声が聞こえる。まずい。食べ物を粗末にしちゃいけない、と怒られる。
「なんにもだよ、お父さん。気合い入れただけ」
「今おまえミスったって言わなかったか?」
ぐぐ、ちゃんと聞いていやがる。
「えっと・・・そ、そう、虫、蚊だよ蚊、殺し損ねちゃって・・・」
「じゃあ何が大津波なんだ?」
ぐぐぐ、しっかりしていやがるな。
「じゃあ、ご飯作るから待っててね」
話を反らす。私はもう一度油を敷き肉とボールの中の物を乗せる。私は塵取りでお好み焼きになれなかったものを取り、雑巾で拭いた。次はちゃんとひっくり返した。
お好み焼きを全部で九枚作った。お父さんが寝ているところに二枚持っていく。
「お父様、ご飯でございます。必要なら昨日の残りのご飯も持ってきますが」
「いい。いつもありがとうな」
「その言葉はお母さんに言ってあげてよ。じゃあ私も・・・」
ピーンポーン、と弾んだ音が木霊する。
「めぐむー、生きてる?」
この声は鈴木だな。あいつは毎週日曜日にうちに昼ご飯を食べに来る。もちろん金はとっている。
「あがって」
私は玄関に向かいながら返事をする。そこには二人の女が立っていた。
「何であんたがいるのよ、栗林」
私は鈴木の後ろに立っていたやつに言う。栗林はかなりの優等生でなぜ鈴木といるかがわからない真面目な女だ。
「ああ、私が連れてきた」
「あんた、私がこいつを嫌ってるってことわかって連れてきたの?」
私は睨みつけながら言う。
「え、そうなの?まあいいじゃん。そんなこと言ってると友達できないよ」
いらないわよ、とは言えない。形式的にもね。鈴木に「あんただけでいい」なんて恥ずかしい台詞言えないしね。
「まあ、今日はしょうがないや。鈴木に免じて許してやる。じゃあついて来て」
私は鈴木と栗林を私の部屋にエスコートして行く。
「じゃあ、五百円ずつ払って。ご飯持ってくるからね」
「了解。今日は何食べさせてくれるの?」
「お好み焼き」
そう言って私は台所に向かった。
「どうぞ。食べていいよ」
私はまだ温かいお好み焼きと箸を差し出しながら言う。
「ご飯もあるよ」
鈴木は私の持ってきたマヨネーズをお好み焼きに盛大に噴射しながら
「あ、ほしい。持ってきて」
「あいよ」
私は三人分のお茶とパイナップルとご飯を持ってくる。
「ねえ、修学旅行のことなんだけど・・・」
栗林が言う。気に障るな。
「何?同じ班になったとか言わないでよ」
栗林は黙ってしまった。当たりかよ。関係ないんだけど真面目なやつがいるとちょっと困るかとが出てくるんだよね。勝手なことが出来ないって言うかさ。
「同じ班なんだね。で、それが何よ」
鈴木は何も言わずに食べるのに必死になっている。
「えっと、北野さんと大平君と、あと西田君と恩野さんが同じ班なんだけど・・・」
知らないやつばかりだぞ。
「誰だって?説明してくれる?」
「北野さんって言うのは・・・前めぐみちゃ・・・」
「私はめぐむ。もう、覚えてよ」
全く、腹が立つね。班員の名前ぐらい覚えなよ。私は人のこと言えないか。
「ごめん」
「で?」
先を促す。
「前めぐむちゃんの隣の席に座ってた目の大きい女の子」
ああ、あのおせっかいね。そんな事も言ってたわね。ちなみにあそこは私の席じゃないからね。
「大平君って言うのは、背の高い、前めぐむちゃんが病院送りにした方と逆の緑髪の男の子」
緑頭ね。オレンジ頭を病院送りだったとはね。やり過ぎたか?
「恩野さんって言うのはB組の女の子。あの可愛い・・・」
「誰だかわかんないけど。まあ、いいや」
「西田君って言うのは・・・F組の眼鏡をかけた優しい感じの・・・」
聞いたことがあるぞ・・・ひょっとしてあの電波か。
「全く覚えられないけど、まあ、いいや」
しばらく沈黙の中でお好み焼きを食べ続ける。私が
「鈴木、この修学旅行のグループってどうやって決めたの?」
「ううん・・・学年全体で籤だっけ」
ありえない。何で学年全体で籤なのよ。そんな学校滅多にないぞ。
「これって三日間同じメンバー?」
「最後の一日はワルツランドで自由」
鈴木はいち早く食べ終わった。そして漫画を手にとる。
「美味しかったわよ。ピーマンはいらなかったけど」
鈴木が言う。私は栗林に
「他にも何か言いたいことがあって来たんでしょ?何よ」
「大平君と仲良くしてとは言わないけれど私たちといっしょに行動して欲しいの」
ああ、そんなことできるはずないだろう。っていうか私の考えが見抜かれてたってこと?私はいまさらながら印象悪いな、と実感する。
「なんでよ」
「えっと、その、私、推薦で進学したいの。そのためにはちゃんとしてなきゃいけないし・・・」
「私の知ったことじゃないね。あんたの事なんて知らないわよ」
全く、他人の都合で動かされてたまるかっていうの。
「あんたそんなこといいに来たの?無駄に決まってるじゃない。だって相手はめぐむだよ」
鈴木が横から口を出す。さすが。私を良くわかっているね。
「そういうこと。大丈夫。先生にばれたら迷子って言っといてやるから。な、鈴木」
「私はどうだっていいわよ。食べ終わった?じゃ、帰ろっか」
「もう帰るの?栗林はどうでもいいから鈴木はもっといなよ」
全力で止める。無駄。
「じゃあね。この後行くところがあるんだ。またね」
そう言って二人は出て行った。
私は食器を片付けてカットしてあるパイナップルを食べる。美味しい。何か面白くない修学旅行になりそう。
こんな一日だった。それなりに楽しかったから良しとしますか。
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