子供の頃から親の愚痴と、嫁対姑の激戦を見て育った。これといった思いも抱かなくなってきたけど、どっちも慣れたって言うか、飽きた。母さんは毎回同じようなことを言うし、婆ちゃんは相変わらず喧嘩腰。ま、なんて言うか今年もそれは変わらなかったわけだ。
生まれてこの方、コーヒーって言うのを美味しいって思ったことがない。缶コーヒーの甘い奴ぐらいしか飲まないのだけど、あの苦さというのが子供の俺にはあわなかった。ぶっちゃけ、今でも美味しいって思わない。
俺は甘いものが大好きなので、紅茶を適当に飲む。眠気覚ましにはいつも紅茶。ジャムを入れてみたり、蜂蜜を入れてみたり。仮にもジャムは美味しいとは言えないのでご注意下さい。
だから、コンビニ行ったら絶対リプトンを買う。お気に入りはミルクティーだけど、これといった執着もなく、気分でいつも迷っている、そんな気がする。
んな飲み物の話しをするつもりはないこともない。今日は12月も暮れ。いつものように大晦日には鐘を付きに行く予定。
「掃除しなさい!!」
母の無駄に元気な声が家の中を木霊する。毎年は窓拭きをさせられているが、今年はまだやってないことにほんのり気が付く。
「でもさぁ、俺は勉強してんだし」
多分無駄。俺はリフレッシュ的なことと、将来の役に立つ事意外が大嫌い。手持ち無沙汰な時間は、適当にリフレッシュか読書に限る。要約すると、手伝いが嫌いなわけだ。
「アンタは一年だから勉強そんなに必死にやらなくていいの!!受験生を見習え!」
とか言って兄貴を想像させる。浮かんだ姿はパソコンやってる姿。
「見習えとは中々な母だな。弟よ、出陣するぞ」
こんな感じで俺は弟を拉致しつつ、手伝いをするノリになる。
「なぁ、ヒロ、もっと綺麗にやらねぇ?」
そう言ってくる弟。相変わらず上等な男だ。
「O型丸出しじゃん」
A型にはこの気持ちわかんねぇよ。
「俺のやつ見ろって」
と、遂にまだ中学生準備期間の弟君に、そんなありがたい言葉を受ける始末。余計なお世話だ、弟。
「っていうかさぁ、なんでお前はそんな丁寧にやんの?別になんももらえねぇじゃん」
「ヒロは貰いたくてやってんの?うわ、最低な兄貴」
・・・早く火星に帰りたいよ。
「終わった?」
相変わらず呑気な母の声。おせち作ってたんだろうな。
「もうちょいで世界を淘汰する」
「淘汰の意味わかって使ってる?」
五月蝿いよ、マサミさん。
「そんなことより、俺がほとんどやり直したんだぜ?」
弟が首を突っ込んでくださる。全く、いつ見ても喧嘩腰なヤローだ。
「お前が好きでやったんだろ?」
「ヒロが綺麗にやらなかったんだろ?」
いつもこんな感じ。兄貴って言う突っ込み役が欠けてると大いに厄介だ。
「で、リーは?」
俺が聞く。リーってんのは、某兄貴。
「起きてると思ってんの?」
弟さんがまた言ってくださる。ガキは引っ込んでろ。
「っていうか受験生だろ?余裕だな、相変わらず。」
俺が嫌味たっぷりで母さんに言う。
「あの子はもういいわ。頑張ってね、ヒロ」
うわ、このおばさん長男見捨てたよ・・・
「だから俺はこの家を出て行くっつってんだろ?もっと都会行ってでかい事やるって。おい、笑うな弟!」
「笑わせんなって。お前がでかい事やるって東京でテロでもやるか?」
「確かにでかいわね・・・御武運を」
「アンタ等ノリよすぎだって」
そして、またなんかややこしい声が木霊しやがった。
「マサミさん!こっち来てちょー」
はぁ、また嫁対姑の聖戦が始まるぞ・・・
「ったくこっちはこっちで忙しいのに・・・はーい、ちょっと待ってください」
「忙しくないじゃん」
弟君の厳しい突っ込み。美しくも甚だしい。そして母さんはここを離れる。少し経ったところで聴きなれた声が響く。
「マサミさんがちゃんと見てないから焦げちゃったじゃないの!」
「私はさっき行くっていってから行きましたよ!キミさんいたじゃないですか!」
相変わらず元気な婆ちゃんだ。
「ねぇ、ヒロ。掃除終わらせちゃおうか。」
「異議なし」
そして掃除を再会する。
しばらくしたところで母さんが来た。来たよ、愚痴言いに来ちゃったよ。
「ねぇヒロ。お婆ちゃんが間違ってると思わない?私はちゃんと行ってから来たわよね?」
知らねー・・・
「全くあの婆ちゃんったら。30年もこの家で耐えた私は凄いわ」
語りだしちゃった、いつものように。
「なんでこんな家来ちゃったんだろう。あの男も全然いいところないのに。はぁぁ、若い頃はもてたのに全員振っちゃったからなぁ・・・」
この話は絶対累計で二桁は越す。
「ヒロもお嫁さん選ぶときはちゃんと見てから選びなさいよ」
この台詞も聞き飽きたね。
「ごめん、母さん、ちょっとトイレ」
俺は戦闘から離脱した。
「ふぅ、終わった。あれ、ヒロは?」
「トイレだって」
「逃げたんじゃん」
「えッ!」
「・・・都合よく息子を信じるから」
俺は家の中からこんな会話を聞いている。客観的に面白いね。
「お、リー君、おはようございました」
「ヒロポンおそよう」
兄貴がライオンのように爆発させた髪の毛を揺らしながら歩く。年寄り臭いぜ。じゃなくてヒロポンって人を麻薬みたいに呼びやがって・・・
「受験余裕?」
「今日イイ天気だな。今いつ?」
「29日。」
「それは違う。それは『今日いつ?』って聞いたときに答えるんだ。社会に出てからやっていけないぞ?」
この兄貴のノリにはカンパイだ。
「11時」
「おお、あと一時間寝れたな・・・母さんは?」
「タイキに愚痴ってる」
「かわいそうな弟だな、アイツも。お前は何やってんの?」
「のほほんと夢の旅」
「・・・イイ御身分で。」
それは俺の台詞だけどな。
「トモ起きてるのー?」
「相変わらずやる気ないな、あの親」
アンタだけは誰にも言えないだろう?
「俺は逃げる、後は任せた」
「お、おい!」
そう言うが早いか、あの男はトイレへ逃げ込んだ。うわぁ、厄介な母さんが来ちゃったよ。
「これで窓拭き終わりね」
タイキ君が仰りやがる。
「お疲れッ」
お兄様の麗しい美声が響き渡りやがる。全く、この世は不公平だ。
「頑張れよ、ヒロ」
んで、俺はなんか屋根の上に乗ったゴミを拾っている。弟がいつか投げた玩具とか。
「懐かしくない?これさぁ!」
俺は兄貴に見せながら拾ったカードをひらひらさせながら言った。
「懐かしいなぁ。どんな恐竜?」
ちなみに、この兄貴は俺がポケットの中に仕組ませて持ってきたことを知らない。大体屋根の上にカードが乗るかって。
「ちょっとそっち持ってく」
「あーい」
兄貴の声。突っ込みどころ満々だけど、あえて突っ込まないことに美しさを求めることにした。
「みんな、お茶入ったわよ」
母さんの声が聞こえる。
「お汁粉も作ったから早く来ないと冷めるわよ」
「うわ待て待て待て。俺の都合は無視かッ」
俺が叫ぶ。
「はーい、今行く」
弟さんの声。兄貴も便乗して歩き出す。俺も屋根から、大きな岩の上に飛び乗って、地面に向かう。
「遅いぞ」
兄貴が言う。こいつにだけは言われたくないな。受験生の鏡め。
「しかもコーヒーかッ」
「ちゃんと豆から入れたのよ」
「紅茶にしろって・・・」
俺はそう言って餅を食べながら母さんに言う。
「甘いものばかりじゃぁね?」
とか言って絶対このおばさんはコーヒーにも砂糖を入れてる、間違いなく。
「あまりまずくないね?」
俺は恐る恐る口にしたコーヒーを見ながら呟く。
こんな日。
毎年来るのだろうか。
このまま、時が経たなかったらいいのに、って思う。